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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和29年(ネ)77号 判決 1955年6月06日

控訴人

(被告) 末吉町長

被控訴人

(原告) 谷口ふみ

主文

控訴人の本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の本訴請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、認否、援用は控訴代理人において当審証人末増茂吉、大窪源次、大窪善蔵、山下豊吉、前原厚の尋問の結果を援用し、甲第二、三号証は不知と答え、被控訴人において甲第二、三号各証を提出し当審証人前原しづえの尋問の結果を援用した外原判決の事実並びに証拠に関する摘示と同一であるから引用する。

理由

控訴人が被控訴人に対して昭和二八年度町民税均等割三百円の賦課処分をなし被控訴人が同年七月二〇日に右均等割徴収令書の交付を受けこれに対して同年八月一九日異議を申立てたところ、控訴人において同年九月一六日右異議を理由なしとして却下決定をなし、該決定書が同月一七日被控訴人に送達せられたことは当事者間に争がない。しかして被控訴人の夫訴外谷口豊二が地方税法第二九五条第一項第三号所定の六五年以上の該当者として町民税の賦課を免除せられていることも当事者間に争のないところであるから、被控訴人は同条第三項の非課税者の除外例となり一応同課税の対象となるけれども、若し被控訴人が前年中に所得を有しなかつたときは同条第一項第一号により課税することはできないものといわねばならない。

そこで被控訴人に果して昭和二七年度(課税の前年度)中に所得があつたか否かについて按ずるに、被控訴人の夫谷口豊二が昭和二七年度中に田一反八畝一八歩、畑一反九畝五歩を耕作していたことは被控訴人の自認するところであるが、当審証人前原しづえ、原審証人末吉清信、同市来とよの各証言によると、訴外豊二の農耕は主として日傭日夫により行い同訴外人は専らその指図に従事する方法により行われておることを看取せられる。更に同証言によると被控訴人は右豊二並びに日傭人夫等が農耕に従事する際お茶或は食事の世話等をしていたことが認められる。尤も当審証人末増茂吉、大窪源次、大窪善蔵、山下豊吉、前原厚等は被控訴人が時に甘藷、麦の収穫等に当り畑仕事に従事しているのを見受けた旨証言しているけれども、当事者弁論の全趣旨と前掲各証人の証言とを綜合すると、被控訴人が夫豊二の農耕に寄与した程度は単に豊二の補助者として前記程度の手伝をしたものに過ぎず、未だ以つて業務としての農耕に従事したもの、つまり所得の根源となるべき稼働行為をしたものとは認め難い。尤も成立に争のない乙第一号証の一乃至三、五、六、同第二号証並びに乙第一号証の四、七等によると、訴外谷口豊二が昭和二六年一一月、及び昭和二七年四月に各農地調整法第四条の申請をなすに際し被控訴人を農業従事者たる家族として記載申請したことは認められるけれども、このような記載があるとしても被控訴人が昭和二七年度中に現実に農業に従事したものとは認められない。その他控訴人の立証をもつてしては、被控訴人が昭和二七年度中に所得があつたものと認め得べき証拠はない。そうであれば被控訴人は地方税法第二九五条第一項第一号該当者として町民税を課することはできないものというべく、従つて控訴人が被控訴人に対して昭和二八年度町民税均等割三百円を賦課したことは違法であつて取消を免れない。よつてこれと同趣旨にいでた原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条により主文のとおり判決する。

(裁判官 甲斐寿雄 二見虎雄 長友文士)

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